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12.05.31

20年ぶりのニース、そしてエズ

南フランスのリゾート都市ニースから車で約30分、「エズ・ヴィレッジ」を初めて訪ねたのは約20年前のこと。

そこを知ったのは、当時古書店で購入した古城ホテルの写真集でのことだった。
なかでもエズのホテルはとても輝いて見え、なんども繰り返して眺めていたのを今でもよく覚えている。

仕事でフランスにはよく行くようになっていたこともあり、南仏を訪ねるまでに時間はかからなかった。
地中海を見下ろす山の中腹にあるホテルで過ごした数日は、それまで日本では味わったことのない、豊かな時間だった。

静かな佇まい、景色と気候、乾いた空気感が身体の芯から癒してくれるのだ。
フランス人のヴァカンスの本質に少し触れた気がした。

贅沢といえば贅沢だけれど、ヴァカンスという文化は彼らの生活に根ざしている。
だれもが楽しむべき、日常の一辺でもある。

当時まだ少人数のスタッフではあったが、すでに文房具の仕事を立ち上げており、いつか皆でここに来てみたいと思ったものだ。
心の中で、将来の究極の社員旅行という目標(?)を掲げた。
思い返すと、その発想も日本人ぽくて、今では少し照れくさい。


去年の夏、あるきっかけで約20年ぶりにエズを訪れることになった。
そこで時の移り変わりを強く感じることになるのだった。

再訪したホテルでは木製の窓枠がサッシになってしまい、使い込まれた木製の床はカーペットに張り替えられ、テラスの柵はデコラティブになり、斜面 の多い街の通路の石畳は歩きやすいようフラットになっていた。
古くて味のある雰囲気が好きな僕にとっては観光地としてより洗練されてしまったことが残念だった。
もちろん景色やそこに流れる空気は20年前とまったく変わらなかったけれど。

以前ニースの町なかで見つけて気に入っていた文具店『Le papier sous toutes ses formes』を訪ねてみることにした。
その店はたしか女性がオーナーで、オリジナルのレターペーパーなども作っている、素朴ではあるけれどこだわりのある味わい深い店だった。

ずっととっておいた、お店の住所がプリントされたメモを頼りに探しまわったけれど、どこにも見当たらない。
近くにあるカフェで聞いてみたら、すでに店を閉じてしまったということだった。

やり場のない期待を胸に残したまま、そこに立ちつくした。
もっと早く来るべきだった。
時代の流れの中で、またひとつ魅力的な文具店が消えてしまっていた。


以前から持ち続けている思いをいっそう強くした。
当時たしかにあった、文具店の魅力をなんとか今に繋げていきたい。
時代の流れの中で忘れ去られていく、なにか大切なことや思い、出来事を閉じ込め残していきたい。

真夏のニースで思いを募らせたのだった。

切り立った山の中腹にあるエズ村

村の中に入ると、時間の流れが穏やかに感じられる


エズからの夜景

モナコのハーバーを見下ろす


マチスが晩年ヴァンスに建てた教会

マチスのステンドグラス



あいかわらずにぎやかな、ニースの旧市街の蚤の市

今はなき文具店『Le papier sous toutes ses formes』のメモブロック


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