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12.06.27

三宅純の伏線

まだデルフォニックスを立ち上げる以前の1980年代半ば、東京の麻布にできた「ボヘミア」というジャズクラブによく出入りしていた。

当時の自分にとって、日本のライヴハウスで聴けるジャズが古くつまらないものになりかけていたところ、唯一この店で新しいジャズのスタイルを感じ取ったのだった。そこは今までどこにもなかった、新しいタイプの店だった。ライヴパフォーマンスはもちろんのこと、日本におけるDJカルチャーやクラブカルチャーの黎明期、唯一の先駆け的スポットであったことは間違いない。そこに集まる人たちも、センスや才能のある人たちであふれ、これから始まるなにか新しいこと、ワクワクする予感が漂っていた。

三宅純氏がパリ在住で、ユニークで型にはまらない作曲家であり、早熟で才能のあるプレイヤーであったこと、数多くのCM音楽を手がけていたことはよく知っていた。パリのギャラリー・ラファイエット・オムの「2009年の男」に選出され、パリの街を三宅純のポスターが埋め尽くしたのを目の当たりにしたときの衝撃は、ほんとうにエポックメーキングな出来事であった。

そして2011年12月、デルフォニックス パリ・ルーヴル店のオープニング・イベントの際に、三宅氏と出会うこととなったのだ。僕はそこで初めて、当時のボヘミアのブッキングを手がけていたのが三宅氏だったことを知った。「あれをやっていたのが 三宅純だったのか!」と心の中で深くつぶやいた。

この出会いが縁となり、当時デルフォニックスのサポートにより進行中だった写真集『RESET―福島の彼方に』のエピローグを執筆いただき、そしてこの6月、三宅氏がピナ・バウシュの追悼公演を日本で行うのに際し、デルフォニックス渋谷ギャラリーで「ピナ・バウシュが愛した音楽家 三宅純」を開催させていただくことになった。

ボヘミアのソワレから30年近くが経ち、やっと知り得たその張本人は、世界でもっとも活躍する日本人音楽家の一人となっていた。
まるでピナ・バウシュが国籍や時空を超えたところで創作していたように。



以上は、デルフォニックス渋谷のギャラリーで開催中の「ピナ・バウシュが愛した音楽家 三宅純」の展示のために書かせていただいたものだ。

彼は80年代のボヘミアの音楽の中枢にいて、自身もライヴ出演しつつ、アーティストのセレクト、ブッキングを行っていた。
アーティスト選びでは、彼独自の一貫したこだわりがあり、身を切るような思いもあったらしい。
しかし新しい匂いやおもしろさを感じさせる背後に、彼の存在があったことが僕にはうれしかった。

また自身の音楽においては、80年代から現在まで、独特でクオリティーの高いアルバムや楽曲を残しており、その作品量、仕事量の多さにも目を見張るものがある。
そしてそれらは常に進化しているのだ。

年を重ねるにつれ、評価をより広く高める音楽家も多くはない。
ピナ・バウシュとの出会いは、彼の活動の幅をさらに広げることとなる。
日本では今年封切りの、ヴィム・ヴェンダース監督の映画「pina」で、メイン楽曲としてサントラで使われたのだが、映画がアカデミー賞にノミネートされたときは、まるで自分もいっしょにノミネートされたかのような高揚感を共有させてもらった。
世界フィギュアスケート選手権では、ペアの金メダリストの舞で彼の曲が流れてきたのが印象深い。

パリに拠点を移してからは、ここで生み出される楽曲によって、新たな境地を切り開いているようにも思える。
僕にとって、次の作品の展開が楽しみで仕方がないアーティストの一人なのだ。

そしてやはり忘れがたいのは、ギャラリー・ラファイエット・オムの「2009年の男」への選出。
ギャラリー・ラファイエットと言えば、ポスターなどのアートディレクションを手掛けているのは、前妻グレイス・ジョーンズのポートレイトなどでも有名なジャン・ポール・グード。
そんな彼による三宅純のポスターがパリ中に貼り巡らされたことは、大事件でもあると思うのだけど、日本では意外と知られていない。
そんな偉業?を涼しい顔でこなしているところがまた三宅純らしくもある。

ところで今週末、ピナ・バウシュ追悼記念コンサートが新宿文化センターで行われる。じつは生で三宅純のライブを見るのは初めてなのだ。
めったにないチャンス、この土曜日がほんとうに待ち遠しい。


Galeries Lafayette Poster ; Jean Paul Goude

三宅純のポスターが街じゅうに貼り巡らされる

ここに掲げられる気分とは?


メトロにも

果てしなく


アルバム「stolen from strangers」ほか

アルバム「Innocent Bossa in the mirror」ほか


ジャン・ポール・グード作品集より


写真集『RESET―福島の彼方に』より


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